Kindleの特徴として、Amazonが販売する電子書籍を携帯電話の3G網を利用し、いつでもどこでも購入できる点がある。では、“Kindleユーザーは携帯電話事業者と契約する必要があるのか?”というとそうではなく、電子書籍のダウンロードにかかる3G網の通信料金は、Amazonで購入した電子書籍の価格に含まれており、Amazonが電子書籍の売上高から通信事業者に支払うモデルとなっている。このため、ユーザーは通信会社や通信料を気にすることなく、Amazonからいつでも気軽に電子書籍を購入できるのだ。
それを踏まえた上で、今回のKindle海外販売だが、これはAmazonのKindleサービスを世界各国で展開するわけではない。米国外在住の米国人や米国以外の英語圏向けに、米国のKindleサービスを提供することが目的とみられる。
では米国以外で、Kindleの特徴である3G網を利用した電子書籍を行えるのかという点に疑問が生まれる。これはどうやら、米AT&Tが持つUMTS(W-CDMA)の国際ローミング網を利用して実現するようだ。たとえば、日本でこの新Kindleを利用し3G網経由で電子書籍を購入する場合、ユーザーのKindleは米AT&T契約のローミング端末としてNTTドコモまたはソフトバンク網へ接続する。これをNTTドコモやソフトバンクの視点から見ると、最近AT&Tの国際ローミングユーザーがデータ通信をよく使うようになったなという話でしかない。
ここで気になるのは、国際ローミング利用による通信コストだろう。AT&Tの場合、国際データローミング料金は大抵の国で$0.0195/KBとなっており、1MBの電子書籍をダウンロードした場合にAmazonがAT&Tに支払う通信料は約20ドルとなる(実際にはディスカウント契約なりが行われていると思うが……)。これではAmazonも商売にならんので、米国外の3G網から電子書籍を購入する場合は、電子書籍の1.99ドルの手数料を上乗せする形をとっている。
ここから実際の利用動向を想像すると、米国外で電子書籍を買うユーザーの大半は1.99ドルの手数料を嫌って、PC向けのAmazonから電子書籍を購入しUSBケーブルでKindleに転送する方法を選ぶだろう。これなら国際ローミングで若干の逆ザヤがあったとしても、トータルでは問題ない。
注:1.99ドルの課金は米国在住の米国版kindleユーザーが海外に持ち込んだ場合限定で、日本で販売される国際版には適用されない?
話を変えて。これを日本でそのまま展開するのは無茶だろう。日本は本がコンパクトでなおかつ安いうえ、2バイト圏でありなおかつコミックが強い。閲覧には見開きで8インチUXGA辺りが欲しい。配信データ量も書籍はともかく、コミックは相当なサイズになる。需要については、米国だと国土の広さから来る流通コストと入手性の改善という目玉があるものの、日本だと流通で困る地域は少ない。どちらかというと、住宅の狭さからくる雑誌や書籍の嵩張り回避、書庫や机上スペースの節約がメインになるだろう。
では書籍の電子化によって書籍メディアに革新が起きるかというと、それはないだろう。電子化は流通や収益源の変化であって、メディアの革新はWebやコミュニティ、高機能なハードウェアの上で起こる。書籍は書籍というメディアの特性を活かす方向で進むのではと。コンテンツ屋のハード活用に関してはいろいろ極まった国だと思うよ。逆はてんで駄目だけど。